のらりくらり日記です。
by e000e0009
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<   2006年 04月 ( 2 )   > この月の画像一覧

運命の不思議

 私はむなしく逃げまわった。私の邪悪な運命はまるで喜び勇んでのように私を追いかけて来て、その運命の不思議な支配がまだ始まったばかりだということを示した。私はパリへ足を踏み入れるや否(いな)や、このウィルスンが私のことに憎むべき関心を持っていることの新たな証拠を見た。幾年も過ぎ去ったが、そのあいだ私は少しも心の安まることはなかった。悪党! ――ローマでは、どんなに折悪(おりあ)しく、しかもどんなに妖怪(ようかい)のようなおせっかいをもって、私の野心の邪魔をしたことか! ウィーンでも――ベルリンでも――またモスコーでも! まことに、心のなかで彼を呪(のろ)うべき苦い理由を持たなかった所がいずこにあったか? 不可解な彼の暴虐(ぼうぎゃく)から、私はとうとう戦々兢々(きょうきょう)として疫病(えきびょう)から逃げるように逃げた。そして地球のはてまでも私はむなしく逃げまわった。
 再三再四、私はそっとわが心に問うた、「彼は何者であるか? ――彼はどこから来たのか? ――また彼の目的はなんであるか?」と。しかし答えは一つも得られなかった。それから今度は、彼のあつかましい監督の形式と、方法と、主要な特徴とを、細かな詮索をして吟味してみた。けれどもそこにすら推量の基礎となるべきものはほとんどなかった。実際、気のつくことは、彼が最近私の邪魔をした多くの場合のすべてが、もしそれがほんとに実行されたなら忌(い)むべき害を生じたであろう計画や行為に限られていたのだ。だが、これは、あんなに横柄(おうへい)に揮った権力にたいするなんという貧弱ないいわけであろう! 自由行動という生得の権利をあんなに執拗(しつよう)に、あんなに無礼に否定されたことにたいするなんという貧弱な損害賠償であろう!
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by e000e0009 | 2006-04-14 11:46

ためらい

 これまで私は、この横柄な支配に意気地(いくじ)なく屈してきた。ウィルスンの気高い性格と、尊厳な叡知(えいち)と、一見遍在していて全知全能であるように思われることとにたいして、自分の常にいだいていた深い畏怖(いふ)の情は、彼の性質のなかのある他の特性と傲慢(ごうまん)さとが自分に起させた恐怖とまで言うべき感じとあいまって、これまでは、私に、自分がまったく無力でどうにもできない者だという考えを与え、また彼の専断的な意志にひどく厭々ながら盲従するようにさせてきたのであった。しかし、近ごろになって、私はまるで酒びたりになり、それが自分の遺伝的な気質に狂おしいくらいの影響を与えて、いよいよ自分を抑えきれなくなった。私は不平を鳴らし――ためらい――抵抗しはじめるようになった。そして、自分自身の強さが増してくるにつれて自分の迫害者の強さがそれに比例して減っていくように私が信じたのは、ただ気のせいであろうか? それがいずれにしろ、私はいまや燃えるような希望の霊感を感じはじめ、とうとう、こっそりと、このうえ決して服従して奴隷(どれい)扱いにされまいという断固とした決心を固めたのであった。
 ローマで、一八――年の謝肉祭(カーニバル)のあいだ、私はナポリの公爵(こうしゃく)ディ・ブロリオの邸宅における仮面舞踏会に出席した。私はその日いつもよりももっとひどく酒を過していた。そしていま、こみ合った室内の息づまるような空気は、私を我慢のできないほどいらいらさせた。それに、ごった返している人込みのあいだを押し分けてゆく厄介(やっかい)さも、気持をいらだたせるのにかなり油を注いだ。というのは、私は、かの年をとって耄碌(もうろく)しているディ・ブロリオの、若い、浮気な、美しい細君をしきりに捜して(どんな卑(いや)しい動機でということは言わないことにするが)いたのだから。彼女は、ひどく不真面目な大胆さで、自分の着ける仮装衣装の秘密を前もって私に知らせてくれていたのだ。そしていまこそ、彼女の姿をちらりと認めたので、私は彼女のところへ行こうとして急いですすんだ。――と、その刹那(せつな)、自分の肩に軽く手が触れるのが感ぜられ、あのいつも忘れたことのない、低い、いまいましいささやきが耳のなかに聞えたのだった。
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by e000e0009 | 2006-04-14 11:46