のらりくらり日記です。
by e000e0009
カテゴリ
全体
未分類
以前の記事
2007年 01月
2006年 11月
2006年 08月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
お気に入りブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


<   2006年 03月 ( 1 )   > この月の画像一覧

どうなるのやら

 さてその人と私らは別れましたけれども、今度はもう要心して、あの十間ばかりの湾の中でしか泳ぎませんでした。
 その時、海岸のいちばん北のはじまで溯(さかのぼ)って行った一人が、まっすぐに私たちの方へ走って戻って来ました。
「先生、岩に何かの足痕(あしあと)あらんす。」
 私はすぐ壺穴(つぼあな)の小さいのだらうと思ひました。第三紀の泥岩で、どうせ昔の沼の岸ですから、何か哺乳(ほにゅう)類の足痕のあることもいかにもありさうなことだけれども、教室でだって手獣(しゅじゅう)の足痕の図まで黒板に書いたのだし、どうせそれが頭にあるから壺穴までそんな工合(ぐあひ)に見えたんだと思ひながら、あんまり気乗りもせずにそっちへ行って見ました。ところが私はぎくりとしてつっ立ってしまひました。みんなも顔色を変へて叫んだのです。
 白い火山灰層のひとところが、平らに水で剥(は)がされて、浅い幅の広い谷のやうになってゐましたが、その底に二つづつ蹄(ひづめ)の痕のある大さ五寸ばかりの足あとが、幾つか続いたりぐるっとまはったり、大きいのや小さいのや、実にめちゃくちゃについてゐるではありませんか。その中には薄く酸化鉄が沈澱(ちんでん)してあたりの岩から実にはっきりしてゐました。たしかに足痕が泥につくや否や、火山灰がやって来てそれをそのまゝ保存したのです。私ははじめは粘土でその型をとらうと思ひました。一人がその青い粘土も持って来たのでしたが、蹄の痕があんまり深過ぎるので、どうもうまく行きませんでした。私は「あした石膏(せきかう)を用意して来よう」とも云ひました。けれどもそれよりいちばんいゝことはやっぱりその足あとを切り取って、そのまゝ学校へ持って行って標本にすることでした。どうせ又水が出れば火山灰の層が剥げて、新らしい足あとの出るのはたしかでしたし、今のは構はないで置いてもすぐ壊れることが明らかでしたから。
 次の朝早く私は実習を掲示する黒板に斯(か)う書いて置きました。
[PR]
by e000e0009 | 2006-03-26 13:50